今回同定するのはこの種類です。筆者が奥多摩で採集してきました。採集したヤスデは70~80 %のエタノールにつけておきます。死後しばらく経ってから浸けると脆くなってしまうため、なるべく生きているときに標本にします。エタノールは薬局で購入することができますが、最初から薄めてあるものはイソプロパノールが含まれていることがあるので、99 %エタノールを買ってきて希釈します。
他に必要なもの
- シャーレ
- 実体顕微鏡
- ピンセット
- ハンドライト(必ずしも必要ではないのですが、光を当てる方向を変えると見やすさが変わります。)
画像はエタノールにつけてある状態です。同定をする前に、まずは体のつくりを見てみます。
頭に最も近い胴節(画像の1)に歩肢(ほし)は無く、その後3節には1対、4節目以降は2対の歩肢がついています。ただし、この個体は雄なので第7胴節の前方の1対は生殖のために特殊化した”生殖肢”となっています。雌には生殖肢の代わりに普通の歩肢があり、他の胴節と大きな差はありません。ほとんどのヤスデ(フサヤスデの仲間とタマヤスデの仲間を除く)の雄は第7胴節周辺に生殖肢を持ちます。
ヤスデは成長に伴い胴節の数が増えます。生涯増え続けるものもいれば、途中で止まるものもいます。オビヤスデ目(この個体もオビヤスデ目)は20(稀に19)胴節で成体になり、脱皮をしなくなります。大まかな分類と胴節数で成体かどうかわかる場合があります。幼体では雄の生殖肢が完成していないため、同定することが出来ません。
エタノールにつけた状態のまま、第7胴節のみ取り外します。胴節は分類や同定ではあまり重要視されないため、多少壊れてしまっても問題はありません。生殖肢を傷つけないことを優先します。
生殖肢の形態は分類群によって全く異なるため、上の画像だけを参考に別の種類で試してみると戸惑ってしまうかも、、、あくまで一例として見ていただけると良いです。
腹面から見てみました。上が頭部側、下が尾部側です。やりやすい種類だと生殖肢だけスポッと抜くこともできるのですが、今回は難しそうだったので胴節を少し壊しました。その後、生殖肢(左)を上から下へ降ろして取り外しました。あまり力を入れすぎると壊れることがあるので、ここは慎重に行います。
上手く取り外すことが出来ました。生殖肢の形態からアカヤスデ Nedyopus tambanus (Attems, 1901) と同定しました。アカヤスデ Nedyopus tambanus (Attems, 1901) には以下の3亜種が知られていますが、生殖肢の形態的差異は僅かです。
2022年02月12日追記:最近、別産地の標本を確認することでこれらの分類には大きな問題があることがわかりましたので、アカヤスデ属の一種Nedyopus sp.に訂正します。赤 (or 白) と黒の縞模様のものをアカヤスデ N. tambanus と同定されているのをたびたび見かけますが、ヤマトアカヤスデ Nedyopus patrioticus の間違いです。アカヤスデは赤と黒の縞模様になることはありません (しかし、わずかに白い帯が入る個体はいます)。
属までの同定は「日本産土壌動物 第二版: 分類のための図解検索 」を使うとよいです。特徴的な種類でない場合、種類まで調べるためには自分で論文を集めて調べる必要があります。
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