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2018年1月23日火曜日

オビババヤスデ Parafontaria laminata (Verhoeff, 1936)

My図鑑/ 節足動物門 Phylum Arthropoda/ 多足亜門 Subphylum Myriapoda/


2018年07月01日 千葉県君津市


2016年07月23日 長野県上田市


 生殖肢の先端付近は内側面(ないそくめん、正中線に近い側のこと)側のへら状の突起と2,3の突起を伴う外側面側の精溝枝に分かれます。①へら状の突起(=medial process)は明らかに精溝枝より長いこと、②生殖肢の内側に突起を欠くこと、③後環節背板後方に褐色の帯があることから他の種と識別されます(Tanabe, 2002を元に改変)。生殖肢の形態はミカワババヤスデParafontaria crenataやヒダババヤスデP. longaに似ています。ミドリババヤスデ種複合体Parafontaria tonominea species complexにもよく似た模様の個体群がいます。正確な同定には生殖肢を確認してください。

 AttemsやVerhoeffの時代、この仲間の分類は非常に混沌としていました。初めて多数の標本にもとづく包括的な研究を行ったのが篠原 (1987; 1989)や新島・篠原 (1988)でした。彼らはキシャヤスデ類(前述の条件を満たすグループ)を以下の4つの分類群に整理しました。

オビババヤスデ Parafontaria laminata laminata (Attems, 1909)
体長:33~35 mm。精溝枝はへら状の突起の長さより短い。精溝枝の先の分枝はどれもほぼ同じ長さ。歩肢(=歩脚)の基節突起は第15~20対以降で突出する。伊豆半島・房総半島周辺と、岐阜県北部・石川県の大まかに2箇所に飛び地状に分布する。

キシャヤスデ Parafontaria laminata armigera (Verhoeff, 1936)
体長:28~30 mm。精溝枝はへら状の突起の長さより短い。精溝枝の先の分枝はどれもほぼ同じ長さ。歩肢(=歩脚)の基節突起は28対あるいは29対以降に限られる。雄の生殖肢の形態はオビババヤスデとの差異がみられない。オビババヤスデに挟まれるように中部山岳地帯に分布。

トヤマキシャヤスデ Parafontaria kuhlgatzi (Verhoeff, 1937)
体長:32~36 mm。精溝枝はへら状の突起の長さより短い。精溝枝の先の分枝は1つだけ少し長く突出する。歩肢(=歩脚)の基節突起はほぼ第20対以降。

エチゼンキシャヤスデ Parafontaria echizenensis Shinohara, 1986
体長:約32 mm。精溝枝の先の分枝は1つだけ長く突出し、へら状の突起の長さに近い。歩肢(=歩脚)の基節突起はほぼ第20対以降。

 その一方、Tanabe (2002)は、こちらも多数の標本を調査した結果、生殖肢の末端部分の形態は個体群間で連続的に変化していること、それぞれの種/亜種は同所的に見つかることはなく、分布の重複もないことから、すべて同種(すなわち、オビババヤスデP. laminata)として扱うことを提案しました。

 さて、改めて新島・篠原 (1988)を確認すると、「1985年秋の大発生時に採集された標品により、はじめてキシャヤスデ類の3種1亜種が含まれていることが確認された地域、乗鞍岳を境に東南面にはキシャヤスデが分布し、北面にはオビババヤスデ、トヤマキシャヤスデおよびエチゼンキシャヤススデ(原文ママ)の3種が混在する」と記述があります。もし、同所的に分布しているのであれば、生殖隔離が生じていることになり、別種とする明確な証拠になります。しかし、採集記録の詳細を見る限りでは、実際にはそれぞれの採集地点はわずかにずれているようで、完全に同所から見つかっているというわけではないようです。

 狭義のオビババヤスデの発生周期は、伊東市の大室高原では4年(新島・篠原, 1988)、富士山麓では6年と推測されています(萩原ほか, 2019)。その一方で、キシャヤスデは8年周期で発生することが昔から報告されています(本群については特にNiijima et al., 2021に詳しい)。トヤマキシャヤスデ、エチゼンキシャヤスデは発生年の周期が明らかになっていませんが、従来のトヤマキシャヤスデに該当する個体が2018年8月と2021年8月に北海道の同じ地点から発見されています(Hirakizawa et al., 2022)。ただし、この間調査が行われていないため、発生周期は明らかではありません。

 このサイトでは、①ヤスデの体長の正確な測定は難しく、同じ標本でも体勢や測定方法により大きな誤差が出ること、②現在報告がある限りでは、旧分類群の分布には重複が見られないこと、③同じ狭義オビババヤスデ内でも場所・個体群により発生周期が異なると推定されており、発生周期の違いは同種内の適応的変化に過ぎない可能性があること、④歩脚基節の突起の形態差は非常に小さな差であり、種を分ける主要な理由としては(これだけでは)同意し難いこと、⑤狭義オビババヤスデは2ヶ所に飛び地状に分布していることから系統を反映しているとは考えにくいこと、⑥生殖肢の形態の変異は連続的であることから、Tanabe (2002)の分類を支持し1種として扱っています。しかし、現在も旧分類が支持されていることは少なくありません。
 汽車を止めたという逸話から、オビババヤスデよりもキシャヤスデという和名の方が有名です。最近は、Parafontaria laminataに対してキシャヤスデという和名が使われることもあります(学術雑誌ではなく、主に図鑑)。しかし、明確に理由を伴って改称されたことはなく、新分類には異論もあることから,従来の和名を理由なく変更することは混乱を招きます(特にこの場合、学名や場所を伴わなければ、何を指しているのかわからなくなってしまう)。よって、このページでは従来通りオビババヤスデと呼んでいます。分類の完全な解決には、核DNAによる系統解析やUVライトを用いた詳細な分布調査が必要です。

 異名リスト
Fontaria coarctata laminata Attems, 1909
Fontaria (Japonaria) coarctata laminata Attems, 1909
Fontaria (Parafontaria) armigera Verhoeff, 1936
Fontaria (Japonaria) laminata Attems, 1909
Fontaria (Parafontaria) kuhlgatzi Verhoeff, 1937
Japonaria (Japonaria) laminata (Attems, 1909)
Japonaria (Parafontaria) armigera (Verhoeff, 1936)
Fontaria (Parafontaria) kuhlgatzi montana Verhoeff, 1941
Fontaria (Parafontaria) aculeata Verhoeff, 1941
Japonaria laminata laminata (Attems, 1909)
Japonaria laminata armigera (Verhoeff, 1936)
Japonaria laminata kuhlgatzi (Verhoeff, 1937)
Japonaria laminata montana (Verhoeff, 1941)
Japonaria laminata aculeata (Verhoeff, 1941)
キシャヤスデ Parafontaria laminata armigera (Verhoeff, 1936)
Parafontaria laminata monticola Hoffman, 1978
エチゼンキシャヤスデ Parafontaria echizenensis Shinohara, 1986
トヤマキシャヤスデ Parafontaria kuhlgatzi (Verhoeff, 1937)

参考文献

  1. 萩原 康夫・桑原 ゆかり・猪俣 瞳子・松永 雅美・長谷川 真紀子 (2019) 富士山麓におけるオビババヤスデの群遊状況について. 富士山研究, 13: 29–32.
  2. Hirakizawa N., Kuwahara R., Wakimura R. and Yamauchi T. (2022) New records of the millipedes Parafontaria laminata (Attems, 1909) (Polydesmida: Xystodesmidae) and Niponia nodulosa Verhoeff, 1931 (Polydesmida: Cryptodesmidae) in Hokkaido, Japan. The Pan-Pacific Entomologist, 98(1): 52–57.
  3. Marek, P.; Tanabe, T.; Sierwald, P. (2014). A species catalog of the millipede family Xystodesmidae. Virginia Museum of Natural History Publications. 17: 1-117
  4. 新島 渓子・篠原 圭三郎 (1988) キシャヤスデ類の大発生. 日本生態学会誌, 38(3): 257–268.
  5. Niijima K., Nii M. and Yoshimura J. (2021) Eight-year periodical outbreaks of the train millipede. Royal Society Open Science, 8(1): 201399.
  6. 篠原 圭三郎 (1987) 日本産多足類の学名の検討 XI. キシャヤスデ類の研究史と種名, 同定記録の整理. Takakuwaia, (19): 1–4.
  7. 篠原 圭三郎 (1989) オビババヤスデとその近縁種の同物異名(倍足綱, ババヤスデ科). 動物分類学会誌, (40): 43–48.
  8. Tanabe T. (2002) Revision of the millipede genus Parafontaria Verhoeff, 1936 (Diplopoda, Xystodesmidae). Journal of Natural History, 36(18): 2139–2183.

2 件のコメント:

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