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2018年1月23日火曜日

ヤマトタマヤスデ Hyleoglomeris japonica Verhoeff, 1936

My図鑑/ 節足動物門 Phylum Arthropoda/ 多足亜門 Subphylum Myriapoda/


2018年11月14日 茨城県つくば市

2016年01月23日 茨城県つくば市


 タマヤスデ目 Glomeridaは国内にタマヤスデ科 Glomeridae タマヤスデ属 Hyleoglomerisの12種が知られています。

 タマヤスデ属は12胴節(頸板 collumー大胸背板 thoracic shieldー通常の背板 normal tergitesー尾節 pygidium)を持ち、雄は19対、雌は17対の歩肢を持ちます。雄では第17・18・19歩肢がそれぞれ副生殖肢、第1端生殖肢、第2端生殖肢 (telopod) となっています。第2胴節背板は大胸背板と呼ばれ、もともとの第2および第3胴節背板が癒合したものです。大胸背板前縁の横溝線には途中で途切れるものと正中線を越え全通するものがあり、それらの本数は第2端生殖肢の形態と並びタマヤスデ属の分類において重要視されています。

 なお、俗にメガボールと呼ばれるネッタイタマヤスデ目 Sphaerotheriidaも一見似通った姿をしていますが、13胴節、雄は23対、雌は21対の歩肢を持ち、日本には分布していません。


 国内には以下の12種が知られ、未記載種も多いため同定には注意する必要があります。分布に関しては文献の調査不足なので、参考程度にしてください。



アワウミタマヤスデ Hyleoglomeris awaumi Kuroda, Susukida & Eguchi in Kuroda, Susukida, Sakamoto, Tsukamoto, Nguyen, Oguri & Eguchi, 2022

タイプ産地:滋賀県近江八幡市宮内町
分布:滋賀県
体長:雄 9–11 mm, 雌 10–11.5 mm。大型で大胸背板は橙色~黄白色。第3背板側面と第11背板はやや黄白色となるが、個体変異がある。端生殖肢第1節の指状突起が基部で折れ曲がらないこと、端生殖肢弁片の切れ込みが弱いことからフイリタマヤスデとは区別できると言われている。



ミクニタマヤスデ Hyleoglomeris insularum Verhoeff, 1936

タイプ産地:東京都付近
分布:茨城県、千葉県、東京都
体長:雌 7.5 mm. 黒色小型で大胸背板の前縁に黄色の横帯がある。尾節の前縁に淡色の横帯は無い。雄が記載されていないため、分類学上に混乱が生じているが関東平野では普通種。

 ほぼ真っ黒なタマヤスデです。黒いタマヤスデには複数種が混ざっているらしく、注意が必要です。



ヤマトタマヤスデ Hyleoglomeris japonica Verhoeff, 1936

タイプ産地:神奈川県藤沢市江の島
分布:茨城県、千葉県、神奈川県、福井県
体長:6-8 mm. 体幅:2.5-3.5 mm. 体色の地色は黒色。大胸背板ー各胴節には1対の淡色の斑紋がある。やや褐色を帯びることが多い。

 特徴的な斑紋と細長い体型を持ちますが、よく似た未記載種がいます。外見での識別は困難です。



シロヘリタマヤスデ Hyleoglomeris lucida Haga in Takashima & Haga, 1956

タイプ産地:橋立鍾乳洞(埼玉県秩父市上影森)
分布:茨城県、埼玉県、東京都
体長:6-8 mm. 体幅:3.2-4.0 mm. 体色は地色が黒色。大胸背板は前方の縁の部分が多少黄白色。各背板の側面には暗黄色の不定形紋がある。

 原記載には明らかに誤った点がいくつか見られ、記述も簡素なため再記載が必要です。


マギータマヤスデ Hyleoglomeris magy Nakama, Nakamura, Tatsuta & Korsós, 2022

タイプ産地:沖縄島
分布:琉球列島
体長:雄 平均8.5 mm, 最大 11.1 mm, 雌 平均8.6 mm, 最大12.1 mm. 通常、大胸背板に1対の大きな勾玉状の斑紋を有し、各胴節には1対の淡色斑と正中線上に1つの淡色斑を有すが、黒化する個体群も存在する。日本産タマヤスデ属既知種ではアワウミタマヤスデと並び最大級。地理的変異や個体変異は国産タマヤスデ属の中で最も詳細に研究されている。


トサタマヤスデ Hyleoglomeris nigra Verhoeff, 1942

タイプ産地:高知県
分布:高知県
体長:雄 6-6.5 mm. 背板は全体的に黒っぽい。日本産タマヤスデ属既知種で雄端生殖肢の形態が判明している種類のうち、端生殖肢の合着基節の突起が弁片に向かい伸びるのは本種のみ。

 筆者が知る限りでは原記載以降記録がありません。高知県内の調査では再発見することが出来ませんでした。



エリジロタマヤスデ Hyleoglomeris sakamotoensis Takano, 1981

タイプ産地:熊本県八代市(旧坂本村)
分布:熊本県
体長:約 9.0-10 mm. 体幅 0.47 mm. 大胸背板の前方約3/4は黄白色で後方に楔形の模様がある。

 筆者未見。三度採集を試みたものの、失敗に終わっています。



フイリタマヤスデ Hyleoglomeris stuxbergi (Attems, 1909)

タイプ産地:馬返(山梨県富士吉田市上吉田)
分布:茨城県、千葉県、山梨県
体長:7 mm. 体幅 3 mm. 大胸背板の地色は淡黄色で3つの褐色の斑紋がある。日本産タマヤスデ属既知種で雄端生殖肢の形態が判明している種類のうち、端生殖肢合着基節の弁片に切れ込みが入るのは本種のみ。

 原記載に誤りがある可能性が極めて高いと考えています。


カントウタマヤスデ Hyleoglomeris sulcata Verhoeff, 1942

タイプ産地:神武寺(神奈川県逗子市沼間)
分布:東京都、神奈川県
体長:雌 11 mm(?). 大胸背板の地色は黒色。横溝線のある部分は黄白色。尾節の前方は黄白色。雌のみが記載され雄の端生殖肢の形は未知。

 ヤマトタマヤスデよりも体幅があるようです。ヤマトタマヤスデに混じって少数見られることがあります。



ユキジロタマヤスデ Hyleoglomeris triangularis Haga, 1968

タイプ産地:福岡県田川市
分布:福岡県
体長:雄 5.0-5.5 mm. 体幅:雄 2.2 mm. 体は淡黄白色または白色。

 国内では唯一の洞窟性のタマヤスデです。



ウエノタマヤスデ Hyleoglomeris uenoi Miyosi, 1955

タイプ産地:百合野の穴(山口県美祢市秋芳町別府)
分布:山口県
体長:雄 10 mm. 体幅:雄 4.5 mm. 体はほとんど黒色。大胸背板は前方1/2以上は黄白色。



ヤマシナタマヤスデ Hyleoglomeris yamashinai Verhoeff, 1937

タイプ産地:沖縄島
分布:沖縄島
体長:5.5-6.0 mm. 体幅:2.6-2.8 mm. 大胸背板の前半は淡黄白色。



この他、複数の未記載種候補を確認しています。まだまだ、分類学的整理の進んでいないグループと言えます。


参考文献

  1. Attems, C. M. T. Graf von(1909). Die Myriopoden der Vega-Expedition. Arkiv för Zoologi. 5(3): 1-84. Uppsala,Stockholm, Link:https://www.biodiversitylibrary.org/page/6392668#page/1/mode/1up
  2. Golovatch, S. I.; Geoffroy, J.-J.; Mauriès, J.-P. (2006). Review of the millipede genus Hyleoglomeris Verhoeff, 1910 (Diplopoda, Glomerida, Glomeridae), with descriptions of new species from caves in Southeast Asia. Zoosystema, 28(4): 887-915., Link:http://sciencepress.mnhn.fr/en/periodiques/zoosystema/28/4/revision-des-diplopodes-du-genre-hyleoglomeris-verhoeff-1910-diplopoda-glomerida-glomeridae-et-description-de-nouvelles-especes-cavernicoles-d-asie-du-sud-est
  3. 芳賀 昭治 (1968). 日本のヤスデ. 自刊, 1-11.
  4. 石井 清 (2014) 皇居における多足類の生息密度. 国立科学博物館専報, 50: 49-58., Link:https://www.kahaku.go.jp/research/publication/memoir/v50.html
  5. Kuroda M., Susukida M., Sakamoto K., Tsukamoto S., Nguyen A. D., Oguri E. and Eguchi K. (2022) A new species of the genus Hyleoglomeris Verhoeff 1910 from Central Japan (Diplopoda: Glomerida: Glomeridae). Acta Arachnologica, 71(2): 115–124., Link: https://doi.org/10.2476/asjaa.71.115
  6. 三好 保徳. (1955). 日本産倍足類及び脣足類の分類学的研究 14. イシムカデの1新種とヤスデの2新種. 動物学雑誌, 64(8): 267-270. 東京. Link:https://ci.nii.ac.jp/naid/110003361662
  7. Murakami, Y. (1975). The cave Myriapods of the Ryukiu Islands (I). Bulletin of the National Science Museum, Series A, 1(2): 85-113., Link:https://ci.nii.ac.jp/naid/40005325205
  8. Nakama N., Nakamura Y., Tatsuta H. and Korsós Z. (2022) A new pill millipede species of the genus Hyleoglomeris Verhoeff 1910 (Glomerida: Glomeridae) from the Ryukyu Archipelago, Japan. Acta Arachnologica, 71(1): 5–12., Link: https://doi.org/10.2476/asjaa.71.5
  9. 杉山 直人・芳賀 和夫 (1989). 筑波山周辺の倍脚類相. 筑波大学菅平高原実験センター研究報告, 10: 39-76., Link:http://hdl.handle.net/2241/10401
  10. 高桑 良興 (1954). 日本産倍足類総説. 日本学術振興会, 1-241. 東京.
  11. 高野 光男 (1981). 日本産多足類の分類学的研究 - II 熊本県でみいだされたタマヤスデ属の1新種. Edaphologia, 24: 35-38., Link:https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010241961
  12. 高島 春雄・芳賀昭治 (1956). 日本産洞窟棲ヤスデの研究. 山階鳥類研究所研究報告, 8: 329-343., Link:https://doi.org/10.3312/jyio1952.1.329
  13. Verhoeff, K. W. (1936). Ueber Diplopoden aus Japan, gesammelt von Herrn Y. Takakuwa. Transactions of the Sapporo Natural History Society, 14(3): 148-172.
  14. Verhoeff, K. W. (1937). Zur Kenntnis ostasiatischer Diplopoden II. Zoologischer Anzeiger, 119(1-2): 33-40. Leipzig.
  15. Verhoeff, K. W. (1942). Ascospermophoren aus Japan und über neue japanische Diplopoden. Zoologischer Anzeiger, 137(11-12): 201-217. Leipzig.

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